最終回 限りなく続く細道
21 March 2013 vol.1383
「ラ・バヤデール」のニキヤ
Photo: 瀬戸秀美
4月からロイヤル・オペラ・ハウスで幕を開けるバレエ作品、「ラ・バヤデール」と「マイヤリング」。過去、このコラムでお話したことのある「ラ・バヤデール」(第10回コラム参照)は、1人の男性をめぐる2人の女性の戦いのお話で、今回は、この作品の主役であるニキヤとガムザッティ両役を(……もちろん、別々の日にですが)踊らせていただける機会に恵まれようとしています。
両役とも以前踊ったことはありますが、それぞれ全く別の時期に踊っていたため、一つの役柄に集中することが出来たのですが、今回は同じ時期ということで、自分がどれだけこのライバル同士の役を演じ分けられるか、新たなる挑戦だと思って日々リハーサルに取り組んでいます。
そして「ラ・バヤデール」とほぼ同時に上演される、ケネス・マクミラン振付「マイヤリング」。マクミラン振付のバレエは悲劇が多いのですが、このバレエはこれまた格別に、これでもかと言うくらいの非常に暗い内容で、幕が開いて埋葬のシーンから始まり、最後も埋葬のシーンで幕が閉まるという具合です。
19世紀末のオーストリアを舞台に、オーストリア=ハンガリー帝国の皇太子ルドルフと男爵令嬢マリー・ヴェッツェラの心中事件、俗に言う「マイヤリング事件」を題材としたこの作品は、皇太子ルドルフの、自殺に至るまでの最期の8年間に焦点を当て、彼の苦悩と悲劇の結末を描いています。台本を担当したジリアン・フリーマンは、振付家ケネス・マクミランの意向に沿って、恋愛模様をセンチメンタルに描いたり、ロマンティシズムに偏ることなく、帝国末期の複雑な政治情勢と人間関係が一人の人間を狂わせて行く様を生々しくあぶり出し、現実に起こった悲劇的な事件の核心に迫るストーリーをつくり上げたと言われています。
この作品に出てくる主な登場人物は、皇太子ルドルフ、令嬢マリー、ラリッシュ伯爵夫人、ステファニー皇妃、エリザベート皇后などですが、私は今回、ルドルフの以前の愛人であるラリッシュ伯爵夫人を初役で演じます。彼女は、ルドルフとマリーを引き合わせた人物であり、ルドルフを影で操るなど、この心中事件のカギを握る重要な存在です。
実話が基になった台本なので、人物は地に足がついていて、特に私が演じるラリッシュ伯爵夫人は人間くさく毒々しい一面をもっています。これまで演じたことがない領域の役で、私にはこれもまた新たな挑戦。本番をとても楽しみにしています。
今回でこのコラムも最終回となってしまいました。色々なことに挑戦するのが好きな私は、このコラムを書かせていただくことで、バレエ・ダンサーの領域にはあまり無い、言葉で自分の感情や考えを表現する、ということを学ばせていただきました。私はいつも、新たなる挑戦を求めています。その先にある様々な未知のものを発見するのが好きだからです。
もちろん、自分の限界を知るのは大事なことですが、でも挑戦するのをやめてしまったら、自分で自分の成長を止めてしまうことになるのではないでしょうか? 人生の細道、ぜひ皆さんも挑戦し、歩き続けてください。
読者の皆様、今までありがとうございました! いつかまたお会いする日まで……。
小林ひかる