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Sat, 23 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 小林ひかる

第31回 バレエ・ダンサーの悪夢

17 January 2013 vol.1379

ヨハン・ハインリヒ・フュースリー「悪夢」
スイス人画家、ヨハン・ハインリヒ・
フュースリーが 描いた「悪夢」。
皆さんはどんな悪夢を見ますか

あけましておめでとうございます。新年の初夢には皆さん、どのような夢を見たでしょうか。今回は、夢は夢でもできれば見たくない、悪夢についてお話したいと思います。

夢と一言に言っても色々ありますが、皆さんはどのような夢を「悪夢」と呼びますか。冷や汗をかきながら目覚めた、というようなことは誰もが経験していると思いますが、その内容は人それぞれ。誰かに追われて逃げている夢や、殺されそうになる夢などは一般的によく言われる悪夢ですが、その人の職業によっても見る悪夢は変わってくるのではないでしょうか。

私たちバレエ・ダンサーがよく見る悪夢ナンバー・ワンは、音楽が鳴っていて自分の出番がきたのに、舞台にたどり着けないというシチュエーション。舞台はすぐ目の前のはずなのに、ドアを開けても舞台がない……!?――一体何回、このような夢を見たことでしょう。そしてナンバー・ツーは、舞台の上で踊っているのに振り付けを知らず、何を踊っているのか分からない、というシチュエーション。何とかして振りを思い出そうとするのですが、全く知らず、手も足も出ない。そのほか、舞台の上でトゥシューズが脱げてしまう、間違った衣装を着て舞台に出てしまった、などなど、舞台に関する様々なハプニングが夢に出てきます。

これらの嫌なシチュエーションは、夢に限らず、現実に起こることもあります。私は最近、こうした悪夢にかなり近い出来事が現実に起こるという体験を2回程しました。

1回目は、公演ではなく、リハーサル風景をお客様に見せるというイベントでの出来事で、当日、とある役を踊る予定のダンサーが不調、同じ役を担当しているもう一人のダンサーも体調不良のため誰もおらず、私に電話がかかってきてしまいました。お願いだから今夜踊ってくれとバレエ団側から頼まれ、どのような物語なのか、どのような音楽なのかもその日の朝まで知らなかった私は、1時間という限られた時間で振り付けを覚え、お客様の前に立たなければなりませんでした。とは言え、ここまで切羽詰まった状態に置かれると結構開き直るもので、意外に落ち着いて踊れたものでした。

2回目は、公演本番。さすがに公演の当日ではありませんでしたが、公演の3日ほど前に、不調のダンサーの代役として出て欲しいと言われ、一度も練習したことのないパドゥドゥ(男性と2人で踊る部分)を急遽仕上げなければならないという、まさに悪夢のような事態に。私の今までのキャリアの中で最短の練習期間でした。

ダンサーにとって、振り付けが体に入っていないまま、舞台に上がらなければならないという状況ほど厳しいものはありません。何週間も練習して舞台に立つときでさえ、急な不安に襲われることは度々。その不安を少しでも無くすため、ダンサーたちは練習に時間を費やしているのです。

悪夢とはちょっと変わって、私にとっての奇妙な夢ナンバー・ワンは、ピルエット(回転技)をしている際に回り続けて止まらなくなる、また跳躍をすると跳び過ぎて降りることができない、というものです。ダンサーではない方がこのような夢を見たらまさに悪夢でしょうが、私たちにとっては素晴らしい夢となります。私もこの夢を見た次の日の朝、夢の中での感覚をまだ覚えているような気がして、練習中に試してみたのですが ――残念ながらやはり夢だった、で終わってしまいました。

 

 

小林ひかる
東京都出身。3歳でバレエを始める。15歳でパリ、オペラ座バレエ学校に留学。チューリッヒ・バレエ団、オランダ国立バレエ団を経て、2003年から英国ロイヤル・バレエ団に入団。09年ファースト・ソリストに昇進した。
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