第28回 原作ありきか、創作か?
18 October 2012 vol.1373
今年夏、南アフリカで踊った
「ライモンダ」
最近、映画「アンナ・カレーニナ」(ジョー・ライト監督)を観ました。私はこの作品をまず初めにバレエで知り、それから映画を観て、現在は原作を読んでいるところです。この原作を読み始めたときに思ったのが「なんで登場人物がこんなにいるのだろう」でした。
バレエの作品(ボリス・エイフマン振付)として観たときには、主要登場人物はアンナ、将校ヴロンスキー、政府高官カレーニンの3名のみ。その中で繰り広げられる三角関係、3人それぞれの心の動きが織り成すドラマを踊りとして表現した作品に感動したものです。そのため、てっきり原作もこの3名の話なのかと思いきや、大違いでした。
主要人物の兄弟や、友人たちの間で起こるエピソードもたくさん含まれており、内容は盛りだくさん。さすがに映画はバレエと比べると原作に近く描かれておりましたが、バレエ同様、省略されている場面も多く、本の原作を映像として映し出す難しさを認識しました。
さて、皆さんはどちらをお好みでしょうか。原作の本を読んでからその映画を観に行くか、それとも映画を観てからその原作本を読むか。
映画化される本というのは大抵の場合、その時点でかなり有名になっているので、既に読んでしまっていることが多いのですが、私はどちらかと言うと、映画を観てから原作を読む方を好みます。上でも述べたように、本を映画にするとかなり物語が縮小されてしまうので、いたはずの登場人物が現れなかったり、本にはあった場面が見られなかったりで、いつも物足りなさを感じてしまうからです。
バレエの作品では「眠れる森の美女」「くるみ割り人形」「マノンレスコー」「マイヤリング」など、本の原作から成り立っているものもあれば、「白鳥の湖」「ジゼル」「ライモンダ」「ラ・バヤデール」など、詩や神話、伝説などを基に、バレエのためにストーリーが創られた作品もあります。
やはり原作から創られた作品は、話の内容が濃くはっきりとしており、登場人物も大勢いることが多いのですが、バレエ用に創られた台本は、話が薄くなり、人物像がはっきりしないことがあるように感じられます。でもそれはそれで、ダンサーにとってはとても興味深いことでもあります。登場人物がこういう性格であるという縛りがないため、自分でその人物の色を染めることができるからです。もちろん、原作がないとはいっても、台本のコンセプトはあるので、それを全く無視するわけにはいきませんが……。今年の夏に南アフリカのケープタウン・シティ・バレエ団で「ライモンダ」を踊ったときもそうでしたが、自分自身でその役の人物像を創り上げていく過程は、とても楽しいものです。
来月は「ジゼル」で主役デビューさせていただくので、今はその役のことで頭がいっぱいになっているところです。たとえ自分では人物を分かっているつもりでも、お客様に伝わらないということもあります。こうした問題は、多くのダンサーが頭を抱えることの一つです。言葉を発することができない分、身体のみで表現していく――まだまだ勉強中の身であります。