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Sat, 23 November 2024

第16回 ロイズの鐘を鳴らすのはあなた

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ロイズ保険のビルを初めて見た人は誰でも「何じゃい、これ?」と驚きを隠せないと思います。建築家リチャード・ロジャースが世界に示した、古典、近代、現代を融合する建築様式の結晶は英国を代表するモダン建築の一つですが、完成時にはチャールズ皇太子に「石油コンビナートみたいだ」と批判されました。確かに、耐用年数の短い設備系機能が外に剥き出しになり、ビルの配管も空調施設もエレベーターも完全に露出する構造です。

昼間はまるで静止したロボットのようなロイズ保険のビルの外観
昼間はまるで静止したロボット

景気の波の影響を激しく受ける保険市場を運営しているロイズとしては、保険ブローカーと顧客が対面で折衝する空間こそが最も大事であり、その空間を景気次第で拡大させたり、縮小させたりする柔軟性が必要です。エレベーターやトイレはビルの外側に付けたり外したりすれば良い、という徹底した実用性に基づいたコンセプト。でも、内部をご覧になってください。単なる実用性重視の無機質な建物でないことが良く分かるでしょう。

中央は大きなアトリウムになっていて、ゴシック様式の大聖堂のような荘厳さと、産業革命の産物であるガラスと鉄の見事なデザインに声を失います。スケルトンになったエスカレーター、天井の格子梁、対面式フロアが、複数のコミュニティー機能を交差させた空間を構成し、伝統と革新がしっかり融合。ロイズ保険の原点が1688年に開かれたコーヒーハウスであり、船舶情報の集まるコミュニティー広場だったことを彷彿させます。

内部は古典、近代、現代の建築様式の結晶
内部は古典、近代、現代の建築様式の結晶

コーヒーハウスで保険の引き受けが始まるころは、海上保険に秀でたイタリア商人が多く住むロンバード・ストリートに店舗がありましたが、業容が拡大して保険市場に専念、王立取引所に移ります。そのときの功労者が「ロイズの父」、アンガースタインで、彼の絵画収集がナショナル・ギャラリーの礎になったことでも有名な人です。拡大し続けるロイズ保険は、20世紀初頭、旧東インド会社のあった現在の場所に移転し、今に至ります。

夜のロイズ保険のビルの外観
夜になると突然、宇宙空間に

そうそう、アトリウムの中心には有名なルーティン・ベルがあります。海難事故などの悲報には一回、無事帰還などの吉報には複数回、鳴らされるのが伝統です。タイタニック号沈没のときには悲報として、また、アポロ8号や11号の無事帰還の際は吉報として世界に向けて鳴らされました。今年も残りわずかになりましたが、来年は吉報の鐘が何度もガンガン鳴るような、平和で幸福な世界になって欲しいものです。「人はみな、悩みの中。あの鐘を鳴らすのはあなた~」。どうぞ、皆様、良いお年をお迎えください。

アトリウムの中心にあるルーティン・ベル
幸せのロイズの鐘よ、ガンガン鳴り響け
 

シティ公認ガイド 寅七

シティ公認ガイド 寅七
『シティを歩けば世界がみえる』を訴え、平日・銀行マン、週末・ガイドをしているうち、シティ・ドラゴンの模様がお腹に出来てしまった寅年7月生まれのトラ猫


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