第40回 シティより愛を込めて、メリー・クリスマス
シティにもクリスマスがやってきました。教会の鐘が慈しみ深く鳴っています。この季節、子供向けのパントマイム「ディック・ウィッティントンと猫」やチャールズ・ディケンズの小説「クリスマス・キャロル」の話題が欠かせませんが、実はどちらもシティに関係し、資本主義の善と悪を伝え、最後は心温まる慈善活動に繋がる話です。
前者の主人公のモデルとなったのは、14世紀末から4度にわたりシティの市長を務めたリチャード・ウィッティントン。劇では猫が財宝をもたらす役回りですが、実在の彼は小型船(catboat)を駆使し、海外貿易で裕福になりました。その後、シティのギルドホールの再建費用を負担したり、教会や病院に多額の寄付をした慈善家でもあります。この物語は16世紀ごろ、イスラムの伝承「猫成金」を基に彼の人生を重ね合わせて作られたようですが、さらにインド仏教の説法「鼠成金」にさかのぼると指摘したのは日本の博物学者、南方熊楠です。
ウィッティントンと彼の猫、トミーの石像
一方、後者の主人公は守銭奴スクルージ。彼の事務所がシティの聖マイケル教会の向かいにあったという設定です。主人公のモデルは専門家の間では英南西部グロスターの銀行家ジェミー・ウッドや政治家ジョン・エルウィスと言われますが、多くの人は王立取引所裏に銅像のあるジョージ・ピーボディを重ね合わせます。何しろ、映画やテレビに登場するスクルージはピーボディの風貌そのものですし、彼の歩んだ人生もそっくりなのです。
スクルージが聴いていた鐘の音は聖マイケル教会のもの
ピーボディはジュニアス・S・モルガン(JP モルガン銀行の創始者、ジョン・モルガンの父)とともに投資銀行を立ち上げ、莫大な富を築き上げました。しかし引退すると貧民救済のために全財産を英国政府に寄付したのです。現在もピーボディ・トラストがロンドンで最も多くの低所得者用住宅を提供しています。ちなみに、ピーボディの米国側の取引相手だったジョンズ・ホプキンスも慈善家で、米国の病院と大学にその名を残しています。
王立取引所裏手にあるジョージ・ピーボディ像
ディケンズ自身も慈善活動に注力。特にアンジェラ・バーデット=クーツ(王家のプライベート・バンクであるクーツ銀行創始者の孫娘)の後ろ盾を得て、ホルボーンにあるサフロン・ヒルの学校の支援やシェファーズ・ブッシュの更生施設の創設に尽力するなど、社会福祉の改善に貢献しました。アンジェラは女性と子供の支援に注力し、花市場で有名なコロンビア・ロード・フラワー・マーケットも作っています。では皆様、シティより愛を込めてメリー・クリスマス。どうぞ良いお年を。
四季折々の花が並ぶコロンビア・ロード・フラワー・マーケット
Merry Christmas with Love!