第193回 エイやサメのフィッシュ& チップス
英国人の国民食といわれるフィッシュ&チップスですが、英国全土に1万1000軒ものお店があり、その数は米系ハンバーガー店の10倍近いそうです。ところがこんなに人気の高いフィッシュ&チップス店もロンドン最初のお店がどこにあったのか定かではありません。1860年にユダヤ移民ジョセフ・マリン氏によって最初の店が開かれたことが定説でも、その場所がロンドン東部のオールド・フォード・ロードかクリーヴランド・ウェイかで意見が割れています。
メニューにはガンギエイやサメもある
フィッシュ&チップスはもともと16世紀にスペインやポルトガルから英国に伝えられた、小魚の揚げ料理ペスカド・フリットから由来したといわれますが、19世紀にタラとジャガイモの揚げ物セットが労働者に急速に広がり、一気に英国を代表する食べ物になりました。定番商品のせいか、揚げ魚の種類をじっくり見る人は少ないかもしれません。身近過ぎて「灯台もと暗し」なのでしょう。
このF&C店の創業は1877年と古い
実はああ見えてフィッシュ&チップス用の揚げ魚は種類が豊富です。Cod(マダラ)、Haddock(モンツキダラ)、Poll ock(スケソウダラ)、Hake(メルルーサ)、Col ey(シロイトダラ)などのタラ類がまず並びます。さらにタラ類以外のPlaice(カレイ)、Lemon Sole(ババガレイ)はおなじみでも、Ray(アカエイ)、Skat e(ガンギエイ)、RockSalmonまたはHuss( 両方ともアブラツノザメ)、まで広がると、一体どんな魚類なのか無関心ではいられなくなります。
エイが絶滅の危機に
エイやサメは軟骨魚類であり、生きる化石といわれるほど古代からの姿のままです。こうした軟骨魚類には浮き袋がなく、肝臓に蓄えた海水より比重の軽い肝油で浮上します。この肝油は医薬品や化粧品に使われるとても貴重なものです。肝油にはスクアレンという物質が多く含まれ、特に最近、インフルエンザや新型コロナのワクチンの抗原性補強剤として使われています。
絶滅の危機にあるアブラツノザメ
英国の底引き網漁では図らずもアブラツノザメやエイが捕れてしまうそうですが、他国のようにヒレや肝臓など必要な部分だけ切り取って、残りを海に捨てるようなことはしません。ちゃんとほかの部分も最後まで使って食卓に届けます。サメもエイもこの半世紀で7割も数が減り、絶滅の危機にあるそうですが、もし今般の新型コロナ・ワクチンのために乱獲が続いて絶滅したら大変です。エイやサメの肝油に人類が救われていることを改めて知り、今とてもスクアレン気持ちです。
ガンギエイ(左上)とサメ(右下)の F&C
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