マルチカルチャーの街ロンドンでは、ファッションや音楽関連のショップだけでなく、本屋も負けず劣らずの個性派ぞろい。これまでとは異なる店の探訪は、なじみのない文化に出合うチャンスにも、自分の知らない世界をのぞくきっかけにもなる。活字離れと言われる昨今でも、好奇心を掻き立ててくれる元気な本屋はまだまだあるのだ。目に留まった本を手に取りページをめくれば、新しい扉が開かれるはず。 (取材・文: Keiko Lippard)
新型コロナウイルスの影響により、営業時間等に変更がある場合があります。最新の情報は店舗へ直接ご確認ください。
まさに本の百貨店
Foyles Charing Cross Road
ロンドン中心部ウェスト・エンドの中でも大きな存在感を放つフォイルズ。入り口近辺にはカラフルなアート関係の本が見栄え良くディスプレーされ、奥へ進めば建物中央の吹き抜け天井から差し込む光が店内を照らす。規模といい品ぞろえの豊富さといい、まさに本の百貨店と呼ぶにふさわしい。劇場に囲まれた土地柄、映画や演劇、音楽関係などエンターテインメント・コーナーの充実ぶりには特に目を見張るものが。演劇だけでも演出法や演技法、舞台美術、俳優の自叙伝など、種類と数はそうそうたるもの。戯曲も多々あり、真剣に読み込んでいる未来の俳優たちの姿も垣間見られる。最上階にはカフェ&ギャラリーもあり、一日中いても飽きない。
マネージャー、エドワードさんお勧めの一冊
「The Sellout」 Paul Beatty 著
2016年に権威ある文学賞マン・ブッカー賞を受賞。アフリカ系米国人である著者が現在の米国における人種問題の深さを描いた問題作だ。エドワードさんいわく、「米国の社会がしっかり描かれていて、最近読んだ本では一番良かった。重い内容だけれど一読の価値ありだよ」。
107 Charing Cross Road, London WC2H 0DT
Tel: 020 7434 1574
月~土 9:30-21:00 日 11:30-18:00(販売は12:00から)
www.foyles.co.uk
20世紀中期までの女性作家の本に光を当てる
Persephone Books
自社出版物、それも主に1900年代初期~中期の英国女性作家による小説や日記を販売するパーセフォニー・ブックス。絶版になってしまった書籍を発掘・再出版し、その魅力を現代に伝えている。「女性の視点を通した社会、世界観は男性のそれとは違う。まして1900年代初頭は女性がなかなか表に出られなかった時代。彼女たちがどんな風に社会を捉えていたかを知るのはとても興味深いものよ」とマネージャーのリディアさん。グレーで統一されたすっきりとした表紙の内側には、それぞれの本が書かれた年代に使われていた布地のデザインが印刷されており、時代背景や内容の雰囲気を伝えるのに一役買っている。
マネージャー、リディアさんお勧めの一冊
「The Closed Door and Other Stories」
Dorothy Whipple 著
「どの作家の本を選んだらいいかとアドバイスを求められたらドロシー・ウィップルの本を挙げるの。自己のスタイルを持った素晴らしいストーリーテラーだし、登場人物の描き方も魅力的。最初はこの短編集が読みやすくてお勧め」。ウィップルは「20世紀のジェーン・オースティン」とも呼ばれる実力派作家。
59 Lamb's Conduit Street, London WC1N 3NB
Tel: 020 7242 9292
月~金 10:00-18:00 土 12:00-17:00
www.persephonebooks.co.uk
「タトリンの塔」が出迎える本屋で人間社会を考える
Bookmarks
ロンドンのみならず、英国で唯一の「社会主義」を看板に掲げる本屋。店頭にはプロレタリアートの象徴にもなっている、ロシア帝国出身のアーティスト、ウラジーミル・タトリンによる「タトリンの塔」の複製模型が鎮座している。中央テーブルにスピーカーが置かれ、その脇の本棚にはロシア革命とマルクス主義に関する本がずらり。この店の姿勢を象徴している。だがそれにとどまらず、人種差別や女性差別など、あらゆるマイノリティーへの差別を扱った書籍がそろうのも特徴だ。そのほか、偏見や差別といった難しい問題を取り上げながらも易しく分かりやすく書かれた本を集めた子供コーナーも設けられている。
マネージャー、セネンさんお勧めの一冊
「A People's History of the World」Chris Harman 著
ヨーロッパやアジア、アフリカなどの国々でどのようにして今の社会が構築されていったのかがまとめられている。「社会というものを理解したいという人には必ずこの本を勧めているんだ」とセネンさんが熱く語る。かなり分厚い本なので、夏休みにチャレンジしたい人はぜひ!
1 Bloomsbury Street, London WC1B 3QE
Tel: 020 7637 1848
月 12:00-19:00 火~土 10:00-19:00
https://bookmarksbookshop.co.uk
声を大にして「自分」を示したい
Gay’s The Word
性的少数者(LGBTQ)の関連本に特化したこの専門書店は、まだその言葉の定義も浸透していなかった1979年にオープン。差別や偏見も多くみられ、個々が孤立しがちだった時代だ。「声を大にして自分の在り方を示すという意味もあって『ゲイズ・ザ・ワード』という名が付けられたんだよ」とマネージャーのウーリーさん。「お互いの違いを認め合う大切さ、自分が自分であることを大事にする気持ち、そうしたものを共有できる場を提供しているという自負もある」と語る。随時催されるイベントでは、ディスカッションも多く行われ、悩みを抱えた人たちにとっては支援グループと会える機会にもなっているという。
マネージャー、ウーリーさんお勧めの一冊
「William's Doll」Charlotte Zolotow 著、William Pène du Bois 絵
ウィリアムは男の子だけど、欲しいのはサッカー・ボールではなく人形。「変なヤツ」と見られることに引け目を感じる彼の元に、ある日おばあちゃんが訪ねて来て……。自分のアイデンティティーの在り方に悩む子供のために書かれた絵本。人と違うことに自信を持ってほしいという作者の気持ちが伝わってくる。
66 Marchmont Street, London WC1N 1AB
Tel: 020 7278 7654
月~土 10:00-18:30 日 14:00-18:00
https://en-gb.facebook.com/gaystheword
超自然現象から宗教まで
Watkins Books
超自然世界に興味を持っている人が多いことで知られる英国にあって、1893年のオープン以来、心霊や魔術、悪魔祓い、占い術などの本を一堂に集めてきたのがここ、ワトキンズだ。怖いもの見たさの好奇心を煽るようなものも多々あるが、扱っているのは俗に言うオカルト系のみではない。心理学、身体と精神のかかわり、世界の宗教、自己啓発、また、昨今では欧米でも人気が高まっているZen(禅)など、人の心にまつわる本が店内2階分にわたり所狭しとひしめき合っている。占いに使われるクリスタルなどのアイテムもあり、100種類を超すタロット・カードやオラクル・カードの様々なデザインを見るだけでも面白い。
スタッフお勧めの一冊
「The Secret」 Rhonda Byrne 著
「幸せになるのに特別な魔法はいらない。でも幸福を生み出す方法はあるのだ」 ――著者が自ら製作を務め、映画化もされた2006年のベストセラー。「今、読んでも人生を豊かに生きる多くのヒントがある。あくまで僕の意見だけどね」と控えめに勧めてくれたスタッフ。
19-21 Cecil Court, London WC2N 4EZ
Tel: 020 7836 2182
月~水、金 10:30-18:30 木&土 11:00-19:30 日 12:00-19:00
www.watkinsbooks.com
初版本、しかもサイン入りを自分のものに
Goldsboro Books
初版本、しかも作家のサイン入りのものだけがそろう本屋。新刊でも装丁を少し変えてある限定版など、どれもがコレクターズ・アイテムだ。施錠されたガラス・ケースの中には、アガサ・クリスティーやコナン・ドイルなどおなじみの作家による希少本が並び、その価値は数百ポンドから2000~3000ポンドになることもあるという。「本も投資の対象かって? もちろん、そうした面もあるけど、自分のお気に入りの作家のサイン入り、それも初版本を持つ喜びのために求める人の方が多いと思うな」とスタッフのダニエルさん。新刊本なら普通の小売価格で買えるので、好きな現代作家がいる人は、新作が出る際に連絡してみる価値あり。
スタッフ、ダニエルさんお勧めの一冊
「How to Stop Time」Matt Haig 著
「16世紀に生まれて、あるタブーさえ破らなければ永遠に生きられる男の話。もちろんフィクションだけれど、生きる意味を問う優れた本だと思う。ネタバレになるからこれ以上、内容については話さない方がいいな」とダニエルさん。今、買っておけば、そのうち価値が上がるかも!?
23-27 Cecil Court, London WC2N 4EZ
Tel: 020 7497 9230
月~金 10:00-18:00 土 11:00-17:00
www.goldsborobooks.com