アート好きじゃなくても、ダミアン・ハーストの名前と、縦真っ二つに切断された牛と子牛のホルマリン漬けは知っているはずだ。今、現代美術界で最も影響力のある人物と召される齢41のハースト。作品で儲けた金を元手に、美術蒐集、不動産に手を広め、少なく見積もって資産1億ポンドを持つといわれている。
ゴールドスミス・カレッジ時代に仲間と手掛けた自主企画展示会「フリーズ」が、大手広告代理店サーチ・アンド・サーチの社長でコレクターのチャールズ・サーチに見出されたのをきっかけに、本格デビュー。93年にべネチア・ビエンナーレで英国代表として先述の作品「Mother And Child,Divided」を出展し反響を呼び、翌々年、ターナー賞を受賞。以後、アート界のみならず全国区的に名が知れる有名人(しかもVIPセレブ)となった。
300万ポンドで購入したグロスターシャーにあるマナー・ハウスを10年かけて改装し、自身の作品と蒐集品を展示する美術館に、また、08年には南ロンドンのランベスにギャラリーをオープンする予定だ。ただしこちらは他のアーティスト作品の展示に限る。ほかにもメキシコに土地、デボンに物件を持ち、彼を支えるスタッフは常時65人という。まさに、ハースト・エンパイアだ。
ロイヤル・アカデミー・オブ・アートの中庭に展示されている妊婦のブロンズ像を「ガーディアン」紙に「不快極まりない」と評され、4日に終わった展示会「A Thousand Years and Triptychs」も定型化を否めない。
「フリーズ」展から18年、作品への形容詞「センセーショナル」、「コントロバーシャル」も、「バリューアブル」に変わった。金の匂いが付きだしたとたんコンサバ化が始まる。