母国日本を旅立ち憧れの英国生活を始めるも、お金の扱い方をめぐって疑問を抱える方たちはきっと多いはず。送金、為替、貯蓄、年金と、短長期のマネー対策は必要不可欠。そこで今回の特集では、日本人ファイナンシャル・アドバイザーの和枝ドゥルーリーさんにご登場いただき、マネーに関するお得な情報及び対策をご提供。立場が異なればお金に関する悩みも人それぞれということで、駐在員、学生、現地採用者、永住者と4つのタイプに分けて、具体的なマネー・プランを伝授してもらいます。より快適で有意義な英国生活を送るためのお役に立てたら幸いです。
駐在員タイプ
高木聡(たかぎ・さとし)さん45歳、年収10万ポンド(約2400万円) 東京に本社を置く日系電気メーカーで欧州担当を務めている高田さんは、今年4月から英国支社に赴任。現在は専業主婦の妻と地元の小学校に通う娘2人と共に、ロンドン西部イーリングに在住している。正式な駐在期間は未定だが、恐らく3~5年となる予定。日本では株売買などをしたこともあり、英国の金融商品に興味あり。また日本には預金が2000万円ほどある。
奥様の銀行口座を開設、預金利子を非課税で受け取る。
日本同様、英国の銀行の利子は20%の所得税が差し引かれて支払われています。しかし英国では、年間一人5225ポンド(約125万4000円、2007・08年)の所得税基礎控除額までの所得(利子を含む)には税金がかかりません。従いまして、専業主婦をしている奥様の名義で行った預金は、利子所得5225ポンドまで非課税ということになります。ちなみに、英国では夫婦間の金銭の譲渡は非課税です。実際には銀行にてR85※1というフォームを入手し、提出しますと利子を非課税にて丸ごと受け取ることができます。
英国、オフショアの金融商品にチャレンジ。
国際金融中心地のロンドンには世界中の情報と頭脳が集まります。ここには驚くべき運用成績を誇る最高運用責任者(ファンド・マネジャー)が少なくありませんし、その投資信託を小額で購入することができます。お任せ運用の投資信託は英国内で5000個程度、オフショア※2を含めますと更に1万個超と膨大な選択肢があり、また選択手段もきちんと確立されています。英国内、オフショアにて開設するポートフォリオ・プランには、一口座内で様々な投資信託を運用管理できることに加えて、ポートフォリオをオンラインにて24時間毎日ご覧になれるなどという特典があります。
日本にある金利ほぼゼロの円預金の有効活用を考えてみる。
英国にいる間に、高い利回りで、更に非課税(R85やオフショアを利用した場合)にてその利子を享受できるのは確かに魅力的です。問題は為替や送金などのコストと手間、また為替リスクをどう見るかです。為替リスクは外貨資産の運用利回りと総合判断した場合、長期間保有すればそれだけ減少する傾向があります。長期間の運用利回りが少々の為替差損や送金コストなどを吸収することができるという論理です。例えば、年率5%で3年間運用すると15.76%、10年間だと62.89%の複利となりますので、長期間であればある程度の為替差損を吸収できるのは明瞭ですね。日本でも外貨は資産運用の一部として扱われています。その外貨運用を帰国後も英国やオフショアにて行っていると考えますと、帰国後の継続を視野に入れた長期保有を検討できると思います。もちろん、帰国後に不動産購入の予定などがあり、その資金を必要とする場合はあまりお勧めできません。
学生タイプ
山口聡子(やまぐち・さとこ)さん22歳、100万円の貯金と、実家から月10万円の仕送り 日本の大学を卒業してすぐに、英語とモダン・アートを学ぶために渡英した山口さん。日本で大学生だった時に一生懸命貯めた100万円の留学資金と、実家から入金される毎月10万円の仕送りを使ってロンドンでの限られた時間を精一杯満喫しようとしている。少なくともビザが切れるまでの1年間は英国に滞在する予定。
海外送金はCitibankが有利。
日本からのポンド建て送金は、円からポンドへの為替レートと手数料によりコストが決定されます。為替レートは公示仲値※3にいくら上乗せられるかにより、ポンドの買値と売値が決定されます。例えば、ポンド円の仲値が237円、銀行側の売値は+4円の241円、買値は-4円の233円という具合です。大手銀行の上乗せレート、手数料はそれぞれ郵便局+4円、2500円(+受け取り銀行手数料5ポンド=約1200円)、邦銀+4円、4000~4500円、Citibank銀行+1円、4000円(預金残高によって割引あり)、新生銀行+2円、4000円となっており、Citibankからの送金が一番有利なようです。ただしCitibankの場合は、口座保持者以外は為替取り扱い手数料が別途2500円かかりますので、できれば口座を開設したいところ。口座維持料なしで口座を維持するには預金残高が50万円以上必要ですので、これを機にご両親に相談してみてはいかがでしょうか。尚、郵便局以外の銀行を使用した場合でも、ポンドを受け取る時に現地の銀行にて手数料を請求される場合が多いのでご注意ください。
銀行口座の開設の方法を考える。
滞在が長期になりそうであれば、英国の銀行口座を開設する方が良いかもしれません。英国では基本的に身分証明書(パスポートなど)と住所を証明する書類(公共料金請求書など)がないと銀行口座を開設できませんが、その公共料金の証明書などの書類にはやはり住所証明が必要なので堂々巡りになってしまうことが多々あります。銀行によって方針に差異はありますが、学校発行の学生証明書、フラットの大家さんやルーム・シェアの大家さんなどが作成したレターなどを住所証明と共に使用するといいでしょう。
Student Accountも視野に入れる。
英国にはStudent Accountが各銀行にあり、金利なしの1年目オーバードラフト(口座残高がマイナスになっても一定額までは金利を請求されないサービス)、クレジット・カード、金利がつく当座預金などの特典を提供しています。残念ながら、通常は永住者のみとの規定がありますが、HSBCがInternational Student Accounts を提供しており、永住者でなくても英国の大学に通学する外国人学生であれば開設可能です。大学へ通う決心をしたら、一度打診してみましょう。
現地採用タイプ
田口武人(たぐち・たけひと)さん31歳、年収3万ポンド(約720万円) 日本で数年のキャリアを積んだ後にロンドンに渡英し、半年間のバイト期間を経てついにフルタイム採用となった田口さん。労働者ビザを取得したため、最低5年間は英国に滞在する予定で、場合によっては永住者ビザに切り替えて今後の人生を英国で過ごすことも検討している。英国と日本に貯金が少々あり、日本で加入した生命保険にまだ入っている。
月の家計収支をしっかり管理。可処分所得は積極的に貯蓄
毎月残りそうなお金(可処分所得)が明確になったら、自動引き落としの積み立て預金を始めてみましょう。知らない間にまとまった資金が貯まっている可能性大です。
Cash ISAを積極的に利用する。
ISA(Indivisual Savings Account)は預金利子が非課税になる銀行口座です。毎月自動引き落としの積み立て預金となるISAも可能なので、積極的に利用しましょう。一税年度につき3000ポンド(約72万円)まで利用できます。また定期預金などでない限りいつでも引き出し可能なので、急な出費の際などに便利です。
余裕があればStock & Shares ISAにもチャレンジしてみる。
今年3月の英国の小売物価RPI(Retail Price Index)の前年対比上昇率は4.8%です。金利が5%でも、物価を考慮するとお金の価値は0.2%しか増えていないことになります。そこで物価上昇抵抗力のある株式や不動産の投資信託などを検討する価値ありです。投資信託のISA(Stock & Shares ISA)は銀行やファイナンシャル・アドバイザーを通して購入、年間7000ポンド(約168万円)まで(キャッシュISAを利用している場合は4000ポンド(約96万円)まで)利用でき、毎月の累積投資も可能です。いつでも引き出し可能ですが、投資信託は購入時に手数料がかかり、価格変動がありますので中長期保有を前提に検討しましょう。
永住の可能性が強くなったら、日本で加入している保険を見直す。
お給料は英国にてポンドで受け取っているのですから、長期契約の生命保険料を収入のない円で支払うには負担がかかりますね。加えて、日本の生命保険は少々医療保険と重なる商品が多く、必要ない保障の保険料を支払うことになりかねません。例えば、特約で入院給付金が1日5000円出るような場合です。英国では、基本的に病気治療には入院も含めてNHSが提供しますし、会社を通して医療保険に加入していれば治療費に入院費も含まれますので、この特約は必要ないということになります。英国政府から、また会社から提供されている保障を総点検し、その不足分を個人的に保険に加入し補うようにしてみましょう。
永住者タイプ
ウォレス信子(のぶこ)さん 48歳、フリーランスの通訳による 年収は2万ポンド(約480万円)、
夫の年収が5万ポンド(約1200万円) 当初は大学院生として渡英した信子さんは、その後ロンドンの証券会社で数年のキャリアを積んだ後、20年前に職場で出会った英国人と結婚。現在はフリーランスの通訳として活躍する一方、18歳の息子と15歳の娘を持つ主婦の役目もこなしている。在英25年、持ち家に住んでおりその住宅ローンは夫が毎月返済している。今後は英国に永住する予定。
住宅ローン残高返済保険(Mortgage Protection)に加入。
ご主人にもしものことがあった場合でも、今現在住んでいる家を住宅ローン返済不可能なため追い出されてしまうようなことがないように、少なくとも生命保険に、予算が許せば疾病付(Critical Illness)生命保険に(ご主人を被保険者と設定)加入しておきましょう。ご主人が死亡、またはがんなどの疾病と診断された場合に、住宅ローンが保険金で完済されます。また長女が21歳で成人になるまでの6年間、ご主人が死亡した以後に毎年保険金が支払われる保険(Family Protection)に加入することによりその間の生活費が保障されます。
自身の年金計画を立てる。
現状のままでは、定年時には国民基礎年金が支給されるのみだと思いますので、ご自分で個人年金に加入するなどして今後の定年計画を立てましょう。英国の個人年金は拠出金に税額控除が適用され、運用益は非課税になるという節税の特典があります。例えば100ポンド(約2万4000円)の年金支払いに対し、実際に支払うのは78ポンドという具合です。これは、基礎税率の税額控除が支払い時に適用されるためです。日本に帰国した場合でも年金はそのまま運用され、定年時に手続きをとれば受け取ることができますので掛け捨てなどになる心配はありません。
ご主人が死亡した場合の相続税対策を。
通常英国人同士、日本人同士の夫婦間には相続税は発生しませんが、英国人と日本人の夫婦の場合、英国人が死亡した際には35万5000ポンド(約8520万円、2007・08年度)を超過する相続財産に対し一律40%の相続税がかかります。例えば、ご主人死亡時に持ち家を共同所有していて、その価値が81万ポンド(約1億9440万円、住宅ローンなし)としますと、ご主人の持分は半分となる40万5000ポンドですから、40万5000ポンド-35万5000ポンド=5万ポンド(約1200万円)に対して40%、つまり2万ポンドの相続税が発生することになります。相続税は家の所有形態を変えたり、信託を設定したりする時など状況に応じて様々な対策が立てられますので、一度具体的な方策を検討されることをお勧めします。
用語解説
※1: R85
本人に収入がないという自己申告書。銀行にて入手、記入して提出。
※2: オフショア
私たち日本人は英国税制上Non-Domicile(英国に定住する意思のない人)と区別されていまして、英国外から生じる所得は、それを英国内に持ち込まない(送金しない、カードを使わない)限り課税されません。従いまして、タックスヘイブンであるマン島やジャージ島などにて預金や運用を行った場合には現地で課税されることも英国で課税されることもないので、非課税での運用が可能となります。ただし、英国に利子所得などを送金などで持ち込んだ場合は課税されますので、ご注意ください。
※3: 公示仲値(TTM)
銀行間取引レートは常に変動しているので、窓口での取引基準に使うと煩雑になります。そこで各金融機関は1日に1回「公示仲値」と呼ばれるレートを定め、その日の取引の基準レートに使用します(1日数回の改定を行う銀行もあります)。公示仲値は各金融機関が独立に決めるので必ずしも一致しませんが、いずれも銀行間レートを参照しているので金融機関ごとのばらつきは0.1%や0.2%といった程度に収まります。送金、両替、トラベラーズ・チェックなどの為替レートはこの公示仲値に一定のマージン(上乗せ)を加算することで機械的に計算されます。
お勧め銀行口座早見表
英国の大手銀行の信用力は抜群です。従いまして、競争力のある金利を継続的に提示しているかどうかが銀行選びの焦点になります。次の金利表をご参照ください。金利で有利なのはインターネット預金ですが、支店取引が可能な銀行口座における比較表も合わせて紹介します。
※ 下表:特別な記載がない限り£1からの預金。いつでも出し入れ自由。変動金利(クリックして拡大)
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illustration:Soichiro Asaba