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Sat, 27 July 2024

小林恭子の
英国メディアを読み解く

小林恭子小林恭子 Ginko Kobayashi 在英ジャーナリスト。読売新聞の英字日刊紙「デイリー・ヨミウリ(現ジャパン・ニュース)」の記者・編集者を経て、2002年に来英。英国を始めとした欧州のメディア事情、政治、経済、社会現象を複数の媒体に寄稿。著書に「英国メディア史」(中央公論新社)、共著に「日本人が知らないウィキリークス」(洋泉社)など。

コロナ、第2波封じ込め対策で地域差が浮き彫り - 各地方で異なる防止策、南北の対立もあらわに

欧州各国で新型コロナウイルスの感染が急増しています。冬に向かって感染拡大の第2波が到来したといってよいでしょう。

英国では新感染者数が連日2万人前後を記録していますが(10月末時点)、英国全体の分布をみると地域によって発生率に大きな差があることが分かります。これを反映して、中央政府の管轄となるイングランド地方、それぞれの自治政府があるスコットランド地方、北アイルランド地方、ウェールズ地方では、感染防止のために若干異なるルールを設けています。イングランド地方は11月4日まで感染のリスクの度合いに応じて「ティア1」、「ティア2」、「ティア3」という3つの段階に分けられ、リスクが高いほど行動制限を厳しくしていました。(5日以降はロックダウン体制に)。

スコットランド地方ではリスクの度合いに応じ、ゼロから4までのレベルに分け、レベル4になると3月のロックダウンのような封鎖体制になります。ウェールズ地方では11月9日まで「防火帯」(ファイヤーブレーク)と呼ばれる緊急の制限規則を導入中です。生活必需品の買い物のみが許され、例外を除いてウェールズ地方を出たり入ったりできないことになりました。北アイルランド地方では11月13日までテイクアウェイを除くレストランやバー、パブが閉鎖で、学校も一時閉鎖状態です。

大きな論争の的となったのが、ロックダウン導入前のイングランド地方の区分けでした。政府は10月中旬から同地方を3つのティア・グループに分けることにしたのですが、最もリスクが高く行動制限も厳しくなるティア3に区分けされることを拒む地域の自治体が出てきたのです。ティア3の地域では、レストランや個人の庭でさえも同居していない家族同士が集まることが禁止され、食事を提供しないパブやバーは閉鎖、地域内から出ること・戻ることにも制限が付きます。そうなれば、経済への打撃がかなり大きくなりますので、できる限りこのグループには入りたくないという姿勢になるのも仕方ありません。

中央政府がティア分けを決めることに反旗を翻したのが、イングランド北部グレーター・マンチェスターのアンディ・バーナム市長です。同地がティア3に区分けされる見込みが出た際に記者会見を開き、実験的な地域別ロックダウンの「炭鉱のカナリアにはならない」と述べました。炭鉱のカナリアとは危険が迫っていることを知らせる前兆という意味です。中央政府がある英南部が「私たちの仕事、家、ビジネス、国の経済を賭け事にしようとしている」、「絶対にそんなことはさせない」。ほかの北部の指導者とともにバーナム氏はロバート・ジェンリック住宅相と話し合いを行い、もしティア3になるのであれば、雇用支援のための資金を提供してほしいと訴えました。最終的に政府は6000万ポンド(約81億円)をグレーター・マンチェスターに拠出することを決め、同地をティア3に指定しました。バーナム氏側が最小限として要求した金額よりも500万ポンド低い金額でした。

バーナム氏の訴えは以前から言われている、イングランド地方の南北問題に改めて焦点を当てました。長年、新規雇用や投資、富の集積はロンドンがある英南部に偏りがちで、同地方の中部・北部は収入、雇用率、生活水準などが南部より低い傾向にあります。政治的には主として保守党が強い南部と、最大野党労働党が地盤としてきた中部および北部に分かれてきましたが、昨年12月の総選挙では労働党が獲得してきた北部の議席を保守党がもぎ取りました。南北の経済格差を解消するため、ボリス・ジョンソン政権は北部の経済活性化策(「レベリング・アップ」)を提唱していますが、コロナ禍の到来で英国全体の経済の先行きが不透明になりました。

コロナは英国内の地域差の不満を噴出させてしまったようです。

キーワード

Levelling Up(レベリング・アップ)

ジョンソン政権による英国内の地域格差を縮少させる施策で、主としてイングランド北部の経済活性策を意味する。ティーサイド、ハンバー地域の港湾施設やインフラへの投資(1億6000万ポンド=約216億円)、北東部、北西部、ヨークシャー地域の再生支援(8000万ポンド)、運輸行路の改善、職業教育の拡充など。キャメロン政権(2010~16年)の北部の経済振興策「ノーザン・パワーハウス」を引き継ぐものともいえる。

 

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