エクルズ・ケーキ
Eccles Cake
「パイ菓子と一緒にチーズを食べるなんて、珍しいなぁ」。これは私が「エクルズ・ケーキ」を初めて見た時の感想でした。ロンドンのセント・ジョンというレストランでは、エクルズ・ケーキの横にチーズが添えられているのです。といっても、その時はすでに別のデザートを頼んだ後だったので、隣のテーブルの人が食べているエクルズ・ケーキのお皿をのぞき見ただけでした。
エクルズ・ケーキとは、直径7センチほどの丸いサクサクとしたパイ生地の中に、カランツ(干しぶどう)の入ったお菓子。スーパーやコーナー・ショップと呼ばれるコンビニで、ビニール・パッケージに入った4つ入りのものを見かけたことのある方も多いのではないでしょうか。包みには「リアル・ランカシャー」と銘打たれている通り、これは、英北部ランカシャーが起源の、紅茶にぴったりの食べ物です。
名前の由来は、かつてはランカシャーに属していて、現在はマンチェスターに含まれるエクルズという町で作られたことにあるといいます。「ケーキ」と呼ぶよりは「パイ」のほうが適切な気がしますが、ケーキと呼ぶ理由についてははっきりしていません。
エクルズ・ケーキの歴史について書かれたものには、必ずというほど18世紀後半にジェームズ・バーチという人物が、エクルズの町にある現在のチャーチ・ストリートに構えた店で売り出したという記述が出てきます。とはいえ、実際にはこのお菓子の歴史はもっとさかのぼることができるようです。というのも、中世のころには、この地のセント・メアリー教会で、毎年フェスティバルが行われていました。その祝祭時に欠かせない食べ物の一つが、エクルズ・ケーキだったというのです。ただ、そのために、1650年になると、清教徒革命で知られるオリバー・クロムウェルによって「異教徒のもの」として禁止されてしまいました。
けれども、そのおいしさにはあらがえなかったのか、このお菓子の歴史はその後も引き継がれ、今では英国中のスーパーで買うことができるほど人気を誇っています。
現在、この「リアル・ランカシャー・ケーキ」を作っている会社は、エドモンズ一家が1930年代に創業。70年代からはエクルズ・ケーキに特化したビジネスをしています。ただし、コーニッシュ・パスティやメルトン・モーブレー・ポーク・パイのように、EU法が規定する地理的表示保護制度(Protected Geographical Indication)に登録されているわけではないので、誰が作ってもエクルズ・ケーキを名乗ることができるようです。
エクルズ・ケーキの作り方(12個分)
材料
- 市販のパフ・ペストリー(パイ生地) ... 400g
- カランツ ... 120g
- バター ... 50g
- ソフト・ブラウン・シュガー ... 50g
- 製菓用ミックス・スパイス ... 小さじ1
- 卵 ... 1個
- カスター・シュガー ... 適量
作り方
- ボウルにバターとソフト・ブラウン・シュガーを入れて、クリーム状になるまでよく混ぜる。
- ❶にカランツと製菓用ミックス・スパイスを加えてよく混ぜる。
- パフ・ペストリーを麺棒で伸ばして12個分の正方形に切り分ける。
- ❸の真ん中に❷をスプーンで載せていく。
- ❹をパフ・ペストリーで包み、丸い形に成形する。
- ❺を裏返して、麺棒を使ってつぶし過ぎないように気をつけながら平らにしたら、上面にナイフで3カ所切り込みを入れる。
- ❻の上に溶き卵を塗り、その上からカスター・シュガーを振りかける。
- 220℃に予熱したオーブンに入れて約20分ほど焼く。表面がきつね色になったら出来上がり。
memo
なぜエクルズ・ケーキと一緒にチーズを食べるかの理由は見つからなかったのですが、イングランド北部では、クリスマス・ケーキやフルーツ・ケーキと一緒にチーズを食べる習慣があるようです。英国食文化の研究課題がまた一つ増えました。