サイダー・ケーキ
Cider Cake
「エールが好きじゃないのなら、サイダーを飲んでみたらどう?」渡英して間もなく、語学学校の友人たちとパブに行ったときに、台湾人のクラスメートが勧めてくれました。サイダーと聞いて私が真っ先に思い浮かべたのは「三ツ矢サイダー」。幼い頃に飲んだことのある炭酸入りの清涼飲料水です。でも、このとき友人に教えられて初めて、英国のサイダーはリンゴで作られたアルコール飲料だと知りました。
飲んでみると、ほんのり甘くて飲みやすい。といっても、サイダーには発泡性のものやそうでないもの、やや濁りがあるものやクリアなもの、甘口だったりドライだったり、アルコール度数もさまざまというように、たくさんの種類があります。
生育のための気候が適しているせいか、昔から数多くの種類のリンゴが育てられている英国。「ザ・ダイナーズ・ディクショナリー」という書物によれば、 リンゴを発酵させたアルコール飲料もアングロ・サクソン時代からあったのではないかとされています。ただ、現在につながるサイダー作りの方法は、1066年のノルマン=コンクェスト以降、フランスから英南東部のサセックスやケントに伝わったようです。そして、この地にサイダー用のリンゴが育てられるようになったのです。それがイングランド西部の地域へと伝播して、西部エリアは現在でもサイダー産地として有名です。
そして今日ご紹介したいのは、こうしたサイダー産地で作られてきたという「サイダー・ケーキ」です。名前の通り、これはリンゴ酒を入れたケーキです。ヘレフォードシャー、グロスターシャー、サマセットやドーセットなど、各地にサイダー・ケーキのレシピがありますが、材料には若干の違いがあり、あるレシピでは干しぶどうが入っています。また、使うスパイスもミックス・スパイスだったり、シナモンやナツメグだけだったりとさまざま。でも、土地柄や家庭によってレシピに若干のオリジナリティーがあることこそが、長年そのお菓子が人々の間で受け継がれてきた証しとも言えます。そして、そうした違いを試してみるのは楽しいもの。
今回、私は、干しぶどうをサイダーで漬けてから焼き込むヘレフォードシャー・タイプと、ドライ・フルーツは入れずにナツメグだけを効かせたサマセット・タイプを試してみました。前者は英国でよくあるフルーツ・ケーキに似た感じです。後者は、素朴な蒸しパンのようにあっさりめ。でも、15世紀以降の英国伝統料理を集めた「ザ・クッカリー・オブ・イングランド」で著者のエリザベス・エアトンが勧めているように、リンゴのピュレとクリームを添えて食べると……いくらでもお代わりできてしまいますのでご注意を。
サイダー・ケーキの作り方(直径20センチの型1個分)
材料
- バター ... 120g
- ソフト・ブラウン・シュガー ... 120g
- 卵 ... 2個
- 小麦粉(プレーン・フラワー) ... 240g
- 重曹 ... 小さじ1
- ナツメグ ... 小さじ1
- サイダー(できればドライ) ... 180ml
作り方
- バターとソフト・ブラウン・シュガーをハンド・ミキサーでクリーム状になるまで混ぜる。
- ❶に溶き卵をほぐしたものを少しずつ加えてよく混ぜ合わせる。
- 120gの小麦粉、重曹、ナツメグを混ぜたものを❷に加える。
- ❸にサイダーを加える。重曹とサイダーが反応して泡が立ってきたら、軽く全体を混ぜ合わせる。
- ❹に残りの小麦粉を入れてダマが残らないように手早くかき混ぜる。
- バターを塗った型に❹を流し入れ、180℃に予熱したオーブンで約40分焼く。表面が焦げ茶色になり、スポンジに竹串を刺してみて、生地が付いてこなければ出来上がり。
memo
重曹を使って膨らませるのが、このケーキがなんとなくノスタルジックに感じるゆえんかもしれません。サイダーは、ほのかに風味が感じられる程度です。中に一緒にリンゴを焼き込むレシピもたくさん紹介されています。まずは一度、このシンプルなレシピを試してみてから、少しずつ自分好みのオリジナル・レシピを見つけてみるのはいかがでしょう。