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Sat, 23 November 2024

Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 蔵 健太

第16回 人と自然が一体となる「願い」の舞台

18 August 2011 vol.1314

野外ステージ自然を感じ、観客の皆さんの思いが伝わる
清里の野外ステージ

11カ月間の長いシーズンも終わり、6週間の夏休みが始まった。ロイヤル・バレエ・ダンサーは、今シーズンも年間150回以上の公演を英国内外で行ってきたので、心身ともに疲労をためている人ばかり。シーズン中に怪我をした人などはここでしっかり休んで回復を図るし、一年の疲れを癒したり、バカンスをエンジョイする人もいる。

手術をして復帰間もない自分は、この夏休みで怪我をしっかり治しつつ、舞台感覚を取り戻すリハビリも兼ね、昨年に引き続き日本でバレエ活動をすることに。北は北海道から始まり、東京、岡山、大阪と舞台活動を行い、今はここ、山梨県は清里に来ている。


東京都八王子市に拠点を持つシャンブルウエストバレエ団が毎年、清里高原の萌木の村に野外特設ステージを作り、清里フィールドバレエという名称で約2週間にわたり毎日バレエを上演している。今年で22回目を迎えるこの公演、業界内では「知る人ぞ知る」というくらい有名な存在なのだが、今回、この公演へのゲスト出演を依頼された。北海道の山に囲まれた田舎に生まれ育った自分にとって、大自然に囲まれ、日本の夏をバレエと一緒に満喫できるなんて申し分無い。依頼をいただいたときは飛び上がって喜んでしまった。

今回踊るのは、「白鳥の湖」「ジゼル」での主役の王子。全幕を通しての公演で主役を務めるのは、これが初めてだ。

この公演は野外公演ということもあり、太陽が出ている時間帯に行うことができないため、太陽が完全に沈む夜8時から始まる。天井が無いので雨が降ると即中止になってしまうし、移り変わりの激しい天気に合わせ演目の内容を変えたりもしなければならない。

出演の一週間前には舞台の下見に行ったのだが、そのときも昼間は晴れていたのに夜は雨が降った為に、当日上演された演目は一旦中断。一時間くらい雨が止むのを待ち、すべてをこなすことができなかった。

ただそのときのダンサー陣の対応が見事なもので、踊っている際中に雨が降っても全く動じず、雨が止むまで体が冷えきらないよう体を温め、雨が止んだ後にステージへ戻るまでモチベーションを保ち続けていた。

一時間も雨が降り続けたら、もう諦めてもいいような気もするのだが、ダンサー陣は皆、雨が止むことを信じ続け、お客さんは傘を差して雨合羽を着ながら公演再開を願っている、その姿に涙が出そうになった。この舞台はまさに人と自然が一体となる「願い」の舞台なのだと、そのとき強く感じた。

一週間後、再度清里へ戻ってきた自分の出演日は、朝から快晴で無事、公演を終了することができた。

その日のステージは今まで味わったことが無いくらい特別な夜となった。

ステージ上を駆け抜ける風とともにジャンプをしたときは自分が夏の花火になったような気がして、言葉にならない程気持ちが良かった。女性をリフトしているときには、本当に白鳥と空中にいるように、心がふわふわしていた。観客の願いが自分の心に伝わった気がして、舞台終了まで胸の中がずっと熱く、 気が付くと汗びっしょりになっていた。

舞台上で自分のこぶし程のオオカマキリやカブトムシが歩いているというハプニングもあったし、「白鳥の湖」の曲に合わせての蝉のコーラスには思わず笑ってしまった。公演の最後に観客が一斉にフラッシュを点け、写真を撮ったのだが、ステージ上からは、北海道の蛍の光に見えてしまい、思わず涙が出た。


夏休みの思い出話はまだまだたくさんあるけれど、また次回、皆様にお届けします。

 

蔵 健太
1978年8月2日生まれ。北海道旭川出身。95年にローザンヌ国際コンクールに出場し、スカラーシップ賞を受賞。ロイヤル・バレエ学校で2年間学んだ後、97年にロイヤル・バレエ団に入団する。現在、ソリスト。http://kentakura.exblog.jp
今後のスケジュール
「Alice's Adventures in Wonderland」3月15日~4月13日(フロッグ役)
(予定は突如変更になる場合があります)
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