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Life at the Royal Ballet バレエの細道 - 蔵 健太

第18回 幸せを運び続ける日本人ダンサーたち

20 October 2011 vol.1323

「青い鳥」の特殊メイク「青い鳥」の特殊メイク完了。
スペイン・バルセロナの楽屋にて

2011年シーズンも始まり、こなさなければならない舞台数も徐々に増えてきた。特にこの時期、10月から年末年始にかけては、ロイヤル・バレエ団も書き入れどき。たくさんのお客さんに来てもらうために、様々なプログラムが用意されている。

そして今月から始まるのが、チャイコフスキーの3大バレエの一つとして有名な「眠れる森の美女」。悪い魔女に魔法をかけられて100年の眠りについたお姫様が、王子のキスによって目を覚まし、2人は結ばれるというストーリーは、観ている側も理解しやすいため、幅広い年齢層の方たちに愛されている。中でもロイヤル・バレエ団版は世界一豪華な衣装、セットとも言われており、デザイナーや建築家の中にも劇場に足を運んでくる人が多い。

この演目はプロローグから3幕までの4幕構成。休憩を入れて3時間という長い作品なのだが、実はこの舞台の現場は、いつも大変なことになっている。

まず4幕構成(通常は3幕)と言うこともあり、一人何役も掛け持ちをしなければならない。衣装だけでなく、カツラ、メイクなどを変えたりしなければならないときもあり、休憩時間中の楽屋内はまさに戦場。出番ぎりぎりまで楽屋内であたふたするなんてこともある。

自分もこの作品では全部で7役を任されており、毎回汗だくで挑んでいる。どの役もそれぞれ楽しんでいるのだが、3幕の結婚式の場面で登場する「青い鳥のパドドゥ」の「青い鳥」役には、いつも苦労している。プリンシパル陣なども踊るこの役は、「幸せを運ぶ青い鳥」として約10分間、女性と一緒に踊ったり、ソロを踊る。その名の通りずっと飛び続けなくてはならず、男性ダンサーの演目の中では1、2 を争う過酷なレパートリーとしても知られている。しかし、踊った後の満足感は、説明できないくらいたまらないものでもある。特殊メイクにもこだわりがあり、いつも約30分くらい時間がかかるのだが、自分の顔とは思えない程の仕上がりを見るのも楽しみにしている。

この役には、個人的にも思い入れがある。今から17年前にロイヤル・バレエ・スクールに入学した当時、プリンシパルで活躍していた熊川哲也さんが「青い鳥」役を踊っていたのだが、ジャンプの高さやキレに圧倒されたのは、今でも忘れられない。そしてその後、今は引退してしまった日本人先輩ダンサーの佐々木陽平さんに任され、今では日本人では自分一人だけがこの役を務めている。8年前に初めて踊ったときのリハーサルでは、あまりのきつさに呼吸が続かず困っていた自分に、佐々木さんがたくさんのテクニックを教えてくださった。彼もまた熊川さんにアドバイスをして頂いたらしく、この役はどうやら日本人ダンサーの間で受け継がれていくものにもなっているようだ。

最近では、インターネットなどで鳥が羽ばたく映像を観てから舞台に上がっている。鳥のように優雅に大きく空を飛べるようイメージを作るのが目的だ。いつも映像を観て思うのだが、一見優雅に飛んでいるように見えるが、よく観ると、実は全身を大きく使って激しく筋肉を動かしているのが分かる。渡り鳥などは、大陸に着くと、疲労のあまり死んでしまうこともあるらしい。

今でもこの役のリハーサルや舞台が終わった翌日には、全身の重みに悲鳴を上げているが、「やっぱり幸せを運ぶってのは楽じゃないんだな」って、あきらめている(笑)。

 

蔵 健太
1978年8月2日生まれ。北海道旭川出身。95年にローザンヌ国際コンクールに出場し、スカラーシップ賞を受賞。ロイヤル・バレエ学校で2年間学んだ後、97年にロイヤル・バレエ団に入団する。現在、ソリスト。http://kentakura.exblog.jp
今後のスケジュール
「Alice's Adventures in Wonderland」3月15日~4月13日(フロッグ役)
(予定は突如変更になる場合があります)
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