


旅の魅力は目的地だけでなく、その行程にこそある
――かつて世界の海を制した英国の豪華客船の歴史と伝統を今に残す
キュナード社のクルーズでは、停泊地での観光以上に、
洋上で過ごす時間こそが何より強い輝きを放つ。
自分のこれまでの日常を振り返り、人生における喜びに思いを馳せる、
そんな一味違う船旅の体験を綴ってみたい。
キュナード社とは?
1839年創立のキュナード社は、英国政府公認の郵便事業を担う海運会社として活躍。その後、長距離旅客輸送から船旅を楽しむクルーズへと比重を移し、1922年には業界初となる世界一周クルーズを敢行するなど、クルーズ・ラインの先駆者として世界的な認知度を誇る。保有する客船には歴代女王の名前を冠することが許されており、現在はクイーン・エリザベス、クイーン・メリー2、クイーン・ヴィクトリアの3隻が就航している。
キュナード社のクルーズ客船の魅力
19世紀から20世紀にかけて特権階級に愛された豪華客船の歴史と伝統を守り続けるサービスが特徴。客室はいくつかのカテゴリーに分かれており、それぞれ専用のダイニングを利用する。また、クルーは全員、クルーズ黄金時代から受け継がれてきた伝統のサービス「ホワイトスター・サービス」を習得。正装での出迎えから毎夕のターンダウン・サービスまで、英国正統派のサービスを提供している。
今回の旅のルート
1月6日出発の「ハンブルクを訪ねるショートクルーズ 5日間」。英サウサンプトン発着、3日目朝に独ハンブルクに到着し、夕方出航。それ以外は洋上での生活を送る。このほか、地中海やエーゲ海、アドリア海の都市を回るツアーや、3~4カ月かけて世界一周するワールドクルーズもある。ワールドクルーズは一部区間のみ参加することも可能。
Q & A
Q: 費用はどのくらい掛かる?
A: 今回のルートの場合、一人249ポンド(Inside(窓なし)カテゴリー、燃料費込、2人で宿泊の場合)~
Q: 料金には何が含まれる?
A: 宿泊、専用ダイニングでの食事(朝・昼・夕)、エンターテインメント
(スパやシアターのボックス席、カジノなどは有料)など。
Q: チップは毎回払うの?
A: 設定されている金額(一日10ドル前後)を最後の精算時にまとめて支払う形。設定金額は船上で変更することも可能。
洋上に広がる別天地
2014年の年明け、イングランド南部の港町サウサンプトンへ向かうと、白く泡立つ荒波にびくともせず巨大な船がそびえ立っている。はるか頭上まで数えきれないほどの小窓が並ぶその様は、船というよりも水上に浮かぶ街のようだ。これから、エリザベス女王の名を冠した豪華客船クイーン・エリザベス号に乗り込み、ドイツ・ハンブルクに停泊し、再びサウサンプトンへと戻る5日間の旅に出る。

雄大に佇むクイーン・エリザベス号
空港同様のセキュリティー・チェックを経て、いよいよ船内へ。白手袋をはめて正装し、胸元にバラの花を飾ったクルーたちが笑顔で出迎えてくれる。目の前には、真っ直ぐどこまでも続く廊下。軽やかに流れるハープの生演奏に耳を傾けつつ進んでいけば、3層吹き抜けになったグランド・ロビーでは、寄木細工の壁画が柔らかい光に包まれて広々とした空間を見下ろしている。カフェではコーヒー片手にのんびり談笑している人たちの姿。何を指示されるでもなく、客の一人ひとりがこの広大な空間を自由気ままに満喫している。長い道のりを経てデッキ8(8階に相当)の船尾にある最上級カテゴリー「Queens Suite」の客室の扉を開くと、目の前には一流ホテルのスイート・ルームさながらにゆったりと配置されたベッドとソファ。バスルームにはバスタブにシャワー・ルーム、そして2人が同時に悠々使える洗面台。ウェルカム・シャンパンとチョコレート、フルーツの盛り合わせに思わず口元が緩んでしまう。港で預けた荷物を、専属のアシスタント・バトラーが運んできたと思ったら、その後はメイン・バトラーが別のスタッフを連れてにこやかに挨拶に訪れる。時計の針の進み方さえゆっくりになったような別世界での日々が突然、幕を開けた。

時間の使い方は千差万別
驚くほどに何の束縛もなく流れる船内の一日は、部屋の入口に置かれた「Daily Programme」をチェックすることから始まる。全船放送などほぼないこの旅での貴重な情報源となるリーフレットには、その日一日の航路や天候、各エリアのオープン時間、エンターテインメントの詳細までが事細かにまとめられている。逃せないイベントをざっとチェックしたら、朝食へ。食事は3食、客室カテゴリー別に用意された専用ダイニングへ赴くことになるが、ほぼ24時間オープンのビュッフェ「Lido」や、予約客のみ受け付けるフレンチ・レストラン「The Verandah」などを利用することも可能だ。ちなみに今回利用したのは最高峰の「Queens Grill」。次のカテゴリーに相当する「Princess Grill」とともにデッキ10に位置し、利用客以外はフロアへの立ち入りが禁じられている。豪華客船の最高峰と聞くと怖気づいてしまいそうだが、スタッフの、スマートさの中に親しみを含ませたサービスには堅苦しさの欠片もない。一方のゲストたちも、さすがに慣れた風情のカップルや家族が多いが、朝ともなればポロシャツやチノパン、ニットにスカートなど、かなりカジュアルな服装で一日の始まりを気楽に過ごしている。メニューはコンチネンタル風からフル・イングリッシュ・ブレックファスト、ときにはフィレ・ミニョンや和朝食まで用意されるという幅広さ。一日中船上という日には、ゆっくり時間をかけて味わいたい逸品ばかりだ。
食事が終わったら、図書室で本を読むも良し、カード・ルームでブリッジに興じるも良し。行動派は朝からジムで汗を流しているし、美を追求する女性たちはジャグジーで身も心も開放させている。午前中から夕方にかけてはパター・ゴルフのコンペ、ピラティスやハーブ療法のセミナーにボールルーム・ダンス(社交ダンス)のレッスンなど、参加型イベントが盛りだくさん。つい夢中になって、専用ダイニングの昼食時間に間に合わない、などということも。そんなときにはビュッフェでサンドイッチをつまんだり、ラウンジやホールで供されるアフタヌーン・ティーを楽しむこともできる。
夜の帳が下りると
緩やかに濃密な時間が過ぎ、やがて夕方6時を迎えるころになると、周りの様子が変わり出す。この時間を過ぎたらカジュアル過ぎる服装(デニムや短パン、サンダルなど)は避けるよう伝えられているので、皆、カジュアル・スマートに着替えて夜の時間がスタート。同じ空間でもほんの少しかしこまった空気が流れるのがまた面白い。こちらも少々おめかしをしてまずは夕食。朝とは打って変わってスーツや膝丈ドレスに身を包んだゲストたちが、ディナーの一品一品に舌鼓を打っている。メニューは前菜、サラダ、メイン、デザートそれぞれ数種の中から選ぶか、アラカルトから注文。カロリー控えめの「スパ・セレクション」もある。どれも街の一流レストラン並みの味とデコレーションだが、特にお勧めなのがアラカルト。鴨肉や舌平目はワゴンで運ばれ、目の前でソースと絡めて切り分けてくれる。付け合わせの野菜やソースの変更などにも柔軟に対応してくれるサービスぶりに、お腹も心も満たされる。

舌平目のグリルと繊細な盛り付けが光るデザート
ディナーを心ゆくまで味わったら、次はエンターテインメント。点在するバーやカフェの前ではピアノやハープの生演奏が繰り広げられ、静かに話をしながら親しみやすいメロディーに耳を傾けている人たちがいる。英国風のパブ「The Golden Lion」で軽快なジャズの旋律が鳴り響いているかと思えば、「The Yacht Club」では深夜までDJが選曲するアップテンポな曲に合わせ、人々が軽快に踊っている。そんな中、特に人気なのは、「Royal Court Theatre」での催し物と、「Queens Room」で行われるボールルーム・ダンスだ。一夜に2回、音楽やダンス、演劇などの演目が催される劇場は、ウェスト・エンドにも引けを取らない本格派。今回の旅ではビートルズの人気曲をバンドが演奏するライブや、オケの生演奏付きのダンス・ショーなどが行われたが、ボックス席以外は無料ということもあってか、毎回立見客も出る盛況ぶりだった。そして豪華客船ならではのメイン・イベントとも言えるのが、ボールルーム・ダンス。バンドの生演奏を背景に、ライトアップされたフロア上に、腕を組んだカップルたちが滑り出す。プロ顔負けにフロア中を軽やかに回るカップルがいるかと思えば、まだ覚えたてのステップを試すように踊るカップルもいる。フロア近くのテーブルでは、曲が始まるや、一人で座っている女性たちに白いスーツを着込んだ男性たちが優雅に手を差し出してダンスを申し込む。彼らはダンス専門クルーで、一人で参加していたり(船ではソロ・ゲストと呼ばれる)、女性同士で乗船した人たちのパートナーになるというわけだ。互いに体を寄せ合い、仲睦まじげにステップを踏む老夫婦、エネルギーいっぱいの母親をスマートにエスコートする息子、時折耳元で何かを囁きながら笑い合うクルーとソロ・ゲスト――彼らが踊る様を1デッキ上のソファから眺めていれば、あっという間に時間が流れてしまう。ずっと船上にいるなんて、退屈ではないだろうか、そんな風に思っていた一日は、瞬く間に過ぎ去っていく。
「フォーマル」な世界を楽しむ
今回の旅では中日に唯一の停泊地ハンブルクに到着し、朝から夕方までの間、ゲストたちは観光ツアーに参加したり、各自で街の散策を楽しんだが、このクルーズ最大の盛り上がりは、その前夜にこそあった。気軽にクルーズを楽しめる客船も増えてきた昨今だが、あくまで歴史と伝統にこだわるクイーン・エリザベス号の船旅で、これぞ真骨頂ともいえるのが「フォーマル・ナイト」。上流階級の紳士淑女が夜な夜なパーティーを繰り広げていた19~20世紀当時の船上の様子を今に再現する。船旅初心者としては、フルレングスのドレスでなければならないのか、手袋は必須なのか、などと事前に心配してしまったが、夕方になって部屋の中で、用意したドレス(ふくらはぎ丈のブラック・ドレス、手袋なし)に腕を通し、化粧直しをしているうちに、不思議と心が躍り始める。一歩部屋の外に出れば、タキシードに蝶ネクタイの男性がロング・ドレス姿の女性を優雅にエスコート。少し意識的に背筋をピンとさせながらダイニングまで行くと、燕尾服を着たマネージャーが挨拶してくれる。いつも決まったテーブルで食事を取るため既に見慣れているはずのほかのゲストたちも、服装だけでなく立ち居振る舞いまでがどこか違う。優雅な気分で食事を終え、船内をそぞろ歩けば、皆、思い思いに「フォーマル」な装いを楽しんでいる。ネクタイ姿の男性もいれば、ひざ下丈のワンピースを着た女性ももちろんいるが、共通しているのは「TPOをわきまえ、かつ楽しむ」ということ。フォーマル・ナイトは堅苦しさではなく、ほんの少しの心地良い緊張と、高揚感を与えてくれる特別な夜なのだ。

フォーマル・ナイトはクルーも正装で

「水上の街」を支える人々
今回乗船したクイーン・エリザベス号の客室数は約1000室。約2000人のゲストに対し、クルーは何と1000人ほどいるという。客室付きのバトラーやアシスタント・バトラー。朝と夕方の2回行われる部屋の清掃を担当するルーム・スチュワード(スチュワーデス)、シェフやユーティリティー・スタッフ、ランドリー担当などなど、この豪奢な世界は様々な人たちの手によって支えられている。ゲストの視界に入る世界は常にさりげなく、かつ厳密に整えられており、その手際の良さとクオリティーの高さは驚くべきものだ。

「船上のシェフ」クラウスさん
船内のすべてのギャレー(厨房)を取り仕切るエグゼクティブ・シェフ、クラウスさんは、この道26年の大ベテラン。「この仕事に興味を持ったきっかけは、生まれ故郷のドイツで観た、豪華客船のテレビ番組。もちろん、働く立場になってみればテレビとは違う面も見えてきますが(笑)、26年間も続けているのですから、やりがいがある素晴らしい仕事であることはお分かりいただけるでしょう」。船上では一週間に7日、休みなしで一日11時間働くという。それでも休暇中には勉強のために別の船会社のクルーズに参加するというから、根っからの「船上のシェフ」だ。いくつものダイニングやパブ、クルー用食堂の屋台骨となる複数のギャレーのトップに君臨するクラウスさんは、クルーズの始まる約3週間前(長期の場合は約3カ月前)から各地にいる食材担当マネージャーと連絡を取り合い、肉や魚介、野菜などをどの程度準備するのかを決定。主要な停泊地で積み込まれた食材は、17もの巨大な冷蔵庫や冷凍庫、乾物庫に、食材ごとに分けて保存される。「船のメリットは、何人のお客様が食事をされるか、前もってある程度把握できることですね」と軽く言うが、一定期間に一定量の食材を使い、最高級の料理に仕上げるバランス感覚は、並大抵のものではないだろう。

旅が大好きと語るオルガさん
船内全体の清掃担当マネージャー、オルガさんもドイツ出身。「ドイツ人は船が大好き。クイーン・エリザベス号がハンブルクに到着するときには、船の雄大な姿を一目見ようと早朝でも市民がやって来るんですよ!」と笑う。ホテル・ビジネスを学んだ後にキュナード社へ。ルーム・スチュワーデスやバトラーを経て、現在の地位に上り詰めた。以前、米国人家族のオーペアをしながら一年間、その家族とともに旅行した際に、旅の魅力にとりつかれたというオルガさんにとって、船での仕事はまさに天職だ。8年間、船上で働いて変化したと感じる点があるか尋ねたところ、「ゲストの方々はより国際的になってきたと思います」と言う一方で、「私たちが提供する伝統的なサービスの質は変わりません」と誇らしげに言い切った。

スポーツ万能アダムさん
子供連れの家族にとって強い味方となるのがキッズ・ルームのクルーたち。お子さん連れの両親が自由に旅を満喫できるよう、年代別のエリアを設置。お絵描きや人形遊びなどを楽しめる年少者向けのエリアに対し、10代の子供たち対象のエリアはダーツやコンピューター・ゲームなどが用意された大人顔負けの仕様になっている。ユース・ダイレクターのアダムさんは、大学でスポーツ・サイエンスを修め、ジムでサッカーなどを教えていた経験を持つ。そのほかのクルーも皆、チャイルドケアの国家資格保持者など、この道のエキスパートばかり。年末年始の休暇明けということもあって今回は比較的、子供の数が少なめだそうだが、夏ともなれば100人以上もの子供たちが船に乗り込むことがあるというから大忙しだ。子連れの家族でも大人と子供のそれぞれが旅を楽しめるのも、この船の魅力の一つだといえよう。
船の達人は人生の達人

多芸多才なジャニスさん
午前中はカジュアルにくつろぎ、夜ともなれば煌びやかな空間にしっくりなじむ――クイーン・エリザベス号のゲストたちは、とにかく「楽しむ」ことの達人だ。比較的高齢のご夫婦が多いが、若いカップルや子供連れの家族など、様々な年齢層や形態のゲストたちの姿も見える。驚いたのは、一人で参加しているゲストが多いことだ。「この仕事をしていて最も楽しいのは、ソロ・ゲストとの出会い。クルーズではソロ・ゲストの方々が集うイベントも開催していて、大勢の方たち、特に女性がお一人で気軽に参加されています」と話してくれたのは、ソーシャル・ホステスのジャニスさん。ある日の夜は正装し、ボールルームで司会を務めたかと思えば、別の日には燦々と日が差し込むラウンジで刺繍のクラスを担当する影のエンターテイナーだ。
毎日ダイニングで顔を合わせていた2人の女性ゲスト、ジルさんとリンダさんはともに英国出身。3年前にクルーズ旅行で知り合ったという2人は、部屋は個別に取り、余暇の時間を一緒に楽しんでいる。既に世界中の国々をクルーズで回っているという船旅上級者の2人。以前はそれぞれ夫とともに旅行していたが、病気で先立たれ、その後は単身、クルーズ旅行を続けている。もともとご主人それぞれが病や障害を負っていたため、サポート体制が整っていて、重い荷物を持ち運びする必要のないクルーズ旅行を重宝していたが、現在では「とにかく安全なのが女性の一人旅にはありがたい」とその良さを語る。「そうじゃないこと、リン?」としきりに同意を促すジルさんにテンポ良く相槌を打ちながら、「まだ夫がいると思っているから、ソロ・ゲスト用のイベントには参加しないの」と隣でお茶目に笑うリンダさん。船上で生まれた人間関係が、こうして後々まで続く友情に発展することもある。

船で友情を培ったジルさんとリンダさん(左)、
ダンスが趣味のクインさんご夫妻(右)
「私たちにとってクルーズの旅は、クレージーでファンタジーにあふれる夢の世界なの」。船旅の魅力をこう評してくれたのは、ロンドン在住のクインさんご夫妻。「すべてがオーガナイズされていて時間通り、何の責任もなくただ楽しめる」クルーズの旅を、15年にわたり毎年楽しんでいる。「もはや家に戻ってきたような気持ち」で船に乗り込むが、例えば地中海クルーズだと、船に滞在するのは夜間だけで、日中は違う都市に停泊するから、毎日新鮮な気持ちで旅を続けられる。クルーズをきっかけに始めたというボールルーム・ダンスの腕前はかなりのもの。そっと体を寄せ合って踊る2人の姿を見ていたら、何だかこちらまで幸福な気持ちになってきてしまった。
船旅も終わりに近付いて
日々、新たなる扉を開けるように刺激を受け続けた旅も折り返し地点を過ぎると、船上で起こる出来事に対し抱く感情に微妙な変化が生じてくる。ダイニングではテーブル専属のクルーが各人の好みを把握し、「あなたはミルクティー、あなたはコーヒーですよね」とこちらが注文する前から話し掛けてくる。前夜ボールルームで知り合ったご夫婦とともに食事をしたいとテーブルを移動し、4人でワインを飲み交わすゲストの姿もある。何度か顔を合わせていた人に思い切って声を掛けてみれば、実は共通の知人がいることが分かったり、自分の部屋を担当しているクルーから自宅の母親のもとに残してきた息子さんの話を聞いたり。巨大な船全体に、ほのかな連帯感のような空気が漂うようになってくる。「旅先で出会う人たちと話をするのが好き」という人は多いが、船旅ではそれよりもう少し深く、人との関わりを味わうことができるのだ。
人生の記念にと生まれて初めて船旅に参加した人、一年の半分以上を船上で過ごす人。数千人もの人々をのせた船は、最終日前夜、真っ暗な海をしぶきを上げつつひたすら進んでいる。船尾にある部屋のベランダからは、くっきりと北斗七星が見える。明朝にはサウサンプトンの港に到着すると思ったとき、心に浮かんだのは何より、船を楽しみ、人生を謳歌している人たちとの別れを惜しむ気持ちだった。船旅の魅力の、ほんの一端を味わうことのできた5日間。船の達人、人生の達人までの道のりは、まだ始まったばかりだ。