第5回 タイトル「バレエの細道」について
17 August 2010 vol.1263
今回はタイトル、「バレエの細道」について話そうと思う。
クラシック・バレエにはたくさんのステップが存在し、一つひとつのステップを繋ぎ合わせることで一つの踊りが成り立っている。そしてロイヤル・バレエ団では毎日、バレエの稽古があり、基本的なステップから舞台で使われる高度なテクニックを含んだものまで、日々練習することが義務付けられている。
舞台に立つ前などイメージ・トレーニングも繰り返すのだが、一つの踊りを考えるときは、まず一つのステップを一つの点のようにイメージする。そしてステップ一つひとつを結んだラインを作るように、頭の中で想像するのだ。
こうすることで舞台に立つとき、自分の頭の中で作り上げた細いラインが舞台上に現れ、その線上を歩いているようなイメージに変わる。言い替えれば、自分は毎日、自分で作り上げた細いライン(道)上を歩いていると感じている。
このイメージを作るきっかけとなったのは、今から数年前、あるバレエのソロを踊らせて頂いたときのこと。当時、まだロイヤルで一人で踊ったことがなかった自分は、とにかく踊りが出来るということがうれしく、何も考えずにソロを始めから最後まで踊りきることだけを考えていた。
そしてその2年後に同じ踊りを任されたとき、自分は以前よりもっと上手に踊りたいとコーチに相談した。コーチは「同じ踊りでも今回はただステップを踏むのではなく、一つひとつのステップに気持ちを込めて踊り、流れを止めないように繋げていきなさい」とアドバイスしてくれ、そのときから一つの踊りが一線上で切れることのない作品を作り上げることに夢中になっている。
今まではこの「細道」、舞台で踊るためだけの頭の中の産物だったが、最近、バレエ以外での普段の生活の中で感じることも多い。特に、人と人との繋がりでも細道は存在していると感じている。人を一点と考えたとき、大勢の人間との結び付きで一つの道が出来ると信じてもいる。
今年の夏、2年ぶりに日本へ帰国し、たくさんのバレエ活動を行ってきた。東京、名古屋にて舞台をこなし、大阪では人生初のバレエ・コンクールの審査員も務めさせて頂いた。福岡、広島、名古屋、北海道では教師活動もし、充実した夏を送ることが出来た。
東京での舞台はロイヤル時代の大先輩、「熊川哲也」さんに招待されたもの。そしてその熊川さんにこの夏、ひょんなことで会うきっかけを与えてくれたのが、同団出身の「吉田都」さん。教師活動、審査員が出来たのも、16年前にロイヤル・バレエ・スクールにて一緒に通っていた先輩を通じて実現したものだ。たくさんの人たちとの繋がりが、一人では何も出来ない自分を成長させてくれ、人生の道が出来上がってきていると感じる。
ロンドンに来て今年で16年目。ロイヤルの年間の公演数がロンドンだけで140回、海外公演は約30回、このほかに中劇場、小劇場での公演もあり、毎日バレエ漬けの日々を送っている。プライベートの時間がほとんどもてない自分にとって、バレエを介した人との出会いは、かけがえのないものとなっている。
これからも自分が信じている「バレエの細道」を、ひたすら歩いて行こうと思ってもいるし、その道がこれからも長く続くことを望んでいる。
* ちなみに松尾芭蕉の「奥の細道」とはなんら関係はありません。