サシャ・バロン・コーエン扮するカザフスタン人リポーター、ボラトの活躍で今、彼の国は人気観光スポットになっているらしい。
映画「ボラト」の副題である「Cultural Learnings of America for Make Benefit Glorious Nation of Kazakhstan」の使命の下、ホモ嫌いで女性蔑視、人種差別主義にして反ユダヤ人主義のボラトが米国を珍道中。肝を冷やす場面が多々ありつつも、爆発的笑いを誘うスカトロジーにしてグロテスクな本作は、サシャの前キャラ、アリG(ジャマイカ出身のロンドンっ子を真似る郊外の白人労働者階級)より物騒な人物像であるがゆえ、逆にネタのストライク・ゾーンが広がった。お陰でロシアでは上映禁止、映画に出ている大学生からは「酔って契約書にサインさせられた」と訴えられ、挙げ句にカザフスタン政府から映画ボイコット・キャンペーンを張られる始末。それにはサシャ曰く「このユダヤ人を訴えると決めた我が政府を全面的に支持します」。一枚上手だ。
ロンドンのピカデリーで服飾店を経営するウェールズ人の父とイスラエル人の母との男3兄弟の真ん中に生まれたサシャ。「リトル・ブリテン」のマット・ルーカスらと同じ北ロンドン郊外にある学費200万円の私立男子校を卒業し、ケンブリッジの歴史学科に学ぶ。一時は博士号コースも考えたというが、ご多分に洩れず高学歴・中流出の英コメディアンだ。ちなみにいとこのサイモンは自閉症分野の権威である。
ユダヤ人がユダヤ人嫌いを演じることで多重構造の笑いが取れる。自虐とタブーの笑い、差別的、排他的、優越的、盲信的なものが晒され滑稽化されることからくる笑い。まさにサシャだから演じられたボラトだ。こりゃ、ハリウッドで次のウディ・アレンを狙うな。