保守アレルギーなし
当代「キング・メーカー」
「漁夫の利」。今、これに当たるのは、自民党と同党党首ニック・クレッグ(43)以外にない。総選挙で36年ぶりに全政党が過半数割れ。議席数を減らした第三政党が、保守党につくか、労働党につくかの「キング・メーカー」となり、結局、前者と戦後初の連立政権を樹立。副首相となったクレッグ以下、党員5名が内閣入りした。
選挙前の英国初のテレビ党首討論で、それまではタダの「二軍」政党の、党首になったのも気付かれなかった人物が、大ファイン・プレー。支持率トップに躍り出て以来、なんだか神がかりな力がついている。確かに、見飽きた2人——栄養の行き届いた「ルイ16世」キャメロンや、「チャーチル」CMのブルドッグ似ブラウンに比べて、手アカのついてないスカッとしたルックスは、ビジュアル向きではあった。
それにしてもなぜ保守党なのか。開票終盤での、「第一党となった党が政権を握るべき」との彼の言は一見もっともらしいが、常識的に考えれば、中道左派の自民党は、労働党と組むのが自然だろう。理念より実利を取って保守を選んだのは、彼の履歴が少なからず影響しているはず。1998年に自民党入りする以前、父親の紹介で、当時、欧州委員会副委員長だったサッチャーの側近ブリタン保守党議員の補佐官を5年間担当し、「免疫」がついているのだ。
父は大和日英基金の理事を務める銀行家、父方の曾祖父はロシア貴族でツァーリの側近だったのを始め、錚々たる顔ぶれが揃う「鳩山」クレッグ一族。本人もウェストミンスター校、ケンブリッジ大、欧州大学院大学の輝かしき学歴を持つ。理想に燃えるぼんぼんが、一筋縄ではいかない狡獪な保守党と組んで、「漁夫の利」から、鯨もろとも海に沈んだ小説「白鯨」のハイエブ船長にならなきゃいいが。