ニュースダイジェストのグリーティング・カード
Sat, 16 November 2024

ヴァイオリニスト三浦文彰xピアニスト辻井伸行

昨年、個性豊かな俳優陣の硬軟取り混ぜた演技や豪華なセットが人気を呼んだNHKの大河ドラマ「真田丸」。ドラマの展開に加え注目を集めたのが、番組冒頭で毎回流れるテーマ曲のヴァイオリン・ソロと、エンディングの「真田丸紀行」のピアノ・ソロを務めた2人の若き音楽家、三浦文彰と辻井伸行の瑞々しい音色だった。昨年、ロンドンのウィグモア・ホールで行われたエイベックス・リサイタル・シリーズが好評を受けて今年も開催。今回は「真田丸」コンビの三浦と辻井、そしてベルリン・フィルの第1コンサート・マスターである樫本大進が登場する。音楽活動に加え、プライベートでも親交があるという三浦と辻井、2人から話を聞いた。

ショパン:エチュード & バラード

辻井 伸行 Nobuyuki Tsujii 東京都出身。幼少期よりピアノを始め、7歳で全日本盲学生音楽コンクール器楽部門ピアノの部第1位受賞。2005年、ショパン国際ピアノ・コンクールでポーランド批評家賞を受賞。09年にヴァン・クライバーン国際ピアノ・コンクールで日本人初となる優勝を飾った。11年には米ニューヨークのカーネギー・ホールでリサイタルを開催するなど世界各地で活動中。英国での演奏経験も豊富で、13年には世界有数の音楽祭プロムスで絶賛を浴び、昨年はエイベックス・リサイタル・シリーズに続き、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団との共演も話題を集めた。
左)ショパン:エチュード & バラード
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ツィゴイネルワイゼン~名曲コレクション

三浦 文彰 Fumiaki Miura

東京都出身。ヴァイオリニストである両親の元に生まれる。2009年、難関として知られるハノーファー国際コンクールにおいて、史上最年少の16歳で優勝。聴衆賞、音楽評論家賞も合わせて受賞するという快挙を成し遂げる。09年度第20回出光音楽賞受賞。16年NHK大河ドラマ「真田丸」テーマ音楽のヴァイオリン・ソロを演奏。現在はウィーンを拠点に、日本を含む世界各国で音楽祭への出演やコンサート活動を行っている。今回、6月に行われるリサイタルがロンドンでの演奏家デビューとなる。
左)ツィゴイネルワイゼン~名曲コレクション
avex-CLASSICS AVCL-25902

まずはお二人が知り合われたきっかけを教えていただけますか。

三浦

昨年2月に行われた読売日本交響楽団との「究極の協奏曲コンサート」というツアーで初めて辻井さんにお会いしました。お互いにコンチェルト(協奏曲)を一曲ずつ弾くというものだったのですが、その際に間近で辻井さんの音楽に触れることができて。10公演くらいあったのですが、毎回本当に感動して、非常に楽しいツアーでした。

辻井

「究極の協奏曲コンサート」での三浦さんはやはり素晴らしい演奏で、一緒にツアーを回っていて楽しかったですし、なかなか若い音楽家の方と出会う機会はないので、こうして知り合うことができてうれしかったです。そのときにはアンコールで2人一緒に演奏もしましたし、20代同士で共演することができて本当に良かったです。今後もまた2人で共演できたらいいな、なんて思っています。

三浦さんはご両親がプロの音楽家で、お母様の指導を受けられたことから演奏家への第一歩を踏み出したと伺っています。一方、辻井さんのご両親は音楽とは直接関係のない仕事に就かれていらっしゃいました。こうした環境の違いが、演奏家としての違いを生み出していると思われますか。

三浦

僕の場合は両親がヴァイオリンを弾いているのですが、恐らくお腹の中にいたときからヴァイオリンの音は聴いていたのではないかな、と。最近、親から聞いた話なのですが、母はお腹がかなり大きくなったときに、アンネ=ゾフィー・ムターのリサイタルを聴いたそうなのです。ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」を弾いていたらしいのですが、そのときに僕が初めて足でお腹をぼんぼん蹴ったと言っていました。でもヴァイオリンを始めたのはたまたま。水泳やサッカーなどほかの習いごとと同じような感覚でスズキ・メソード*を始めました。結局は自分が好きになれないと続けられなかったことですけど、その点は母がうまい具合に教えてくれたのではないかなと思います。まあ、すごく怖くて厳しかったのですが(笑)。

*スズキ・メソード 子供向けの音楽による情操教育を行う活動で、教室はヴァイオリンやピアノなどいくつかの科に分かれている

辻井

僕も三浦さんと似たような感じで、母のお腹の中にいるときからクラシックは聴いていたようです。そして生後8カ月のころにはショパンが大好きで、特に(スタニスラフ・)ブーニンの弾く「英雄ポロネーズ」に合わせてリズムを取っていたので、ピアノが大好きなのだなと母が感じたそうです。うちは両親とも音楽家ではなく、「ピアノが好きなら習ったら?」という感じで好きなようにやらせてくれたので、それが良かったのではないかなと思っています。こうした辺りは多少、三浦さんと共通している部分もありますね。

左:三浦文彰さん、右:辻井伸行さん

音楽家としてのお互いの印象をお聞かせください。自分と似ている、異なると思われる点はありますか。

三浦

辻井さんの印象は何と言っても美しい音色、そして毎回、演奏会での熱い演奏に感動します。自分と似ている点といえば、食べることが大好きというところでしょうか(笑)。

辻井

三浦さんはすごく明るく、いつも堂々として落ち着いている印象です。舞台度胸が良いところや、いつも完璧な音楽性と技術で、毎回素晴らしい演奏ができるところを尊敬しています。

音楽を離れてみるといかがでしょう?

三浦

僕たちは普段、演奏会で色々なところに行きますが、例えば辻井さんとツアーで一緒になったときは、本番の後にものすごい量を食べるんですよ(笑)。おいしいものを食べたり、お酒を一緒に飲んだりして、コンサートの緊張感から離れてリラックスします。楽しい時間ですね。

辻井

僕も三浦さんと同じく、一緒にお酒を飲んだりご飯を食べたり、コンサート以外にプライベートでも一緒にいて、楽しい時間を過ごしています。カラオケにも行ったことがあるのですが、お互い色々な歌を歌いました。プライベートでオフの姿、例えば楽しそうにお酒を飲んでいる三浦さんの姿を見る機会もあって。せっかく知り合えましたので、これからも音楽以外でも一緒に遊べたら、と思っています。

三浦

そうですね!

お二人ともクラシック音楽以外の演奏活動にも携わっていらっしゃいます。記憶に新しいところでは、三浦さんはNHK大河ドラマ「真田丸」メイン・テーマのソロ・ヴァイオリンを、辻井さんは「真田丸紀行」のピアノを担当されました。

三浦

僕はこのNHK大河ドラマで、初めてドラマのための音楽を演奏させていただきました。大変光栄なことです。服部隆之先生が作曲された音楽は素晴らしく、実は僕としてはクラシック音楽と全くの別物とは思っていません。クラシック音楽の作曲を根本から勉強されたということが演奏していても分かりますし、自分が弾いていてもどんどんアイデアが出てくる。本当に今回、演奏することができて良かったです。

辻井

僕は作曲も少しやっておりまして、映画音楽やTVドラマの音楽なども手掛けたことがありますが、大河ドラマは初めてでした。僕はエンディングの「真田丸紀行」のテーマを担当させていただいたのですが、ゆったりとしていてかつメリハリがあり、本当に素晴らしい曲でした。メイン・テーマも格好良くて、こうして三浦さんとも仕事を一緒にできて、大変光栄です。

三浦 文彰 Fumiaki Miura

辻井さんは過去に何度も英国でコンサート活動を行われていますが、三浦さんはこれまで、英国で演奏されたことはありますか。

三浦

僕はこれまで演奏したことがなく、英国でのコンサートは今回が初めてとなります。

旅行で英国を訪れたことは?

三浦

あります。僕はヴァイオリンを弾いていて、楽器商の人たちと関わることが多かったので、そういうときには日帰りで英国に行ったりしていました。

辻井さんは昨年に引き続いてのウィグモア・ホールでのリサイタルとなりますね。

辻井

僕は英国で演奏させていただく機会がかなり多く、指揮者の佐渡裕さんがBBCフィルと一緒に演奏したときに、僕をソリストとして呼んでくださったときが最初です。あとは(ウラディーミル・)アシュケナージさんの指揮でフィルハーモニア管弦楽団と共演したり、BBCプロムスにも出演しました。昨年初めてウィグモア・ホールで演奏しましたが、今回もこうしてまた同じホールでリサイタルをさせていただけるなんて非常にうれしいです。イギリスの聴衆の方たちは集中して聴いてくださるので、とても素晴らしいなと感じています。

特に思い入れのある英国の作曲家はいますか。

三浦

僕はこれまで結構、(ベンジャミン・)ブリテンの曲を演奏する機会があったのです。ヴァイオリン・コンチェルトを今年の3月に初めてワルシャワで演奏したのですが、本当に素晴らしい曲で、ドイツ音楽とはまた違った魅力があり、音楽の山場になる箇所をエモーショナルにしているなという印象があります。実は今年、(エドワード・)エルガーのヴァイオリン・コンチェルトも演奏する予定が何回かありまして、それも非常に楽しみにしています。もともと聴くのが大好きな壮大な曲なのですけれども、エルガーにしてもブリテンにしても似たところがあると感じています。僕が思うにドイツ音楽は起承転結が完璧にできている音楽が多いのですが、イギリス人作家の音楽はエモーショナルで熱いと言いますか、ロマンティックな印象があって、僕はすごく大好きですね。

エモーショナルで熱い、というのは具体的にどういうことでしょう?

三浦

言葉で説明するのは難しいことですが、ブリテンやエルガーは作品がどれも雰囲気がとても独特です。ブリテンの作品は第二次大戦が始まったころに書かれていることもあり、戦争の激しさを表現しています。それに対しエルガーの音楽は全く逆で、本人の言葉で「この曲は実にロマンティックであり、私はそれが大好きである」と残されています。ドイツ音楽は言うまでもなく常に自分の中で軸になっていますが、最近はこういったイギリスの作曲家たちの魅力にも惹かれています。

辻井

僕はピアノ曲ではこれまでイギリスの作曲家にはあまり縁がないと言いますか、残念ながらまだ弾いたことがないのです。オーケストラでもエルガーなどの曲は素晴らしいですし、もしピアノ曲で自分に合う作品と出合えたら、ぜひ弾いてみたいと思っています。

三浦

今度、エルガーのヴァイオリンとピアノのソナタをやってみますか。

辻井

じゃあ一緒に(笑)!

辻井 伸行 Nobuyuki Tsujii

コンサート以外で、今回の来英で楽しみにしていること、または英国でお好きな場所がありましたら教えてください。

三浦

さきほども「日帰りで」と言いましたが、実は長くて1~2泊しかしたことがなく、大英博物館やそのほかの美術館などを凄まじい勢いで訪ねたりしています。イギリスには素晴らしいところが色々あるので、これから自分の好きな場所を見つけていければいいなと思っていますね。楽しみにしています。

辻井

ロンドンは何回も訪れていますし、マンチェスターや、リヴァプールではビートルズの住んでいたところにも行きました。イギリスには縁があるので、まだ行ったことがないようなところも訪れてみたいです。

それでは最後になりますが、今回のコンサートに対する意気込みをお聞かせください。

三浦

ロンドンの歴史的なコンサート・ホールであるウィグモア・ホールでのリサイタルということに加え、僕にとってはロンドン・デビューにもなりますので、本当に楽しみにしています。共演するイタマール・ゴランとは既に色々なところで共演させていただいていまして、過去に彼と演奏した曲の中から特にお互いが毎回、楽しんで演奏できている曲でプログラムを作りましたので、たくさんの方々にお越しいただきたいと思っております。

辻井

僕は去年に引き続き2回目のウィグモア・ホールでの演奏となります。大変、響きの良いホールで、また素晴らしいお客様の前で演奏できることが楽しみです。今年は「バロックと古典」というテーマで初めてバッハにも挑戦します。バッハは音楽の原点とも言える作曲家なので、ぜひその素晴らしさを皆さんに伝えていきたいです。

2017年春夏 ウィグモア・ホールで再び
エイベックス・リサイタル・シリーズが開催

ウィグモアホール
昨年もウィグモア・ホールで演奏した辻井さん

昨年、大好評のうちに幕を閉じたエイベックス・リサイタル・シリーズが再びロンドンのウィグモア・ホールに戻ってくる。今回は、前回に引き続いての参加となる辻井伸行に加え、三浦文彰と樫本大進の2人が登場。それぞれ4月、6月、7月の土曜日の午後にリサイタルを行う。既にチケットは発売中。

Wigmore Hall
36 Wigmore Street W1U 2BP
Tel: 020 7935 2141 
料金: 各20ポンド
最寄駅: Bond Street 駅 / Oxford Circus 駅
http://wigmore-hall.org.uk

辻井伸行 ピアノ・リサイタル
4月1日(土)13:00

演奏: 辻井伸行(ピアノ)
曲目: バッハ「イタリア協奏曲 BWV971」
モーツァルト「ピアノ・ソナタ第17番 変ロ長調 K.570」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第14番 ハ短調『月光』」
ベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第23番 ヘ短調『熱情』」

三浦文彰 ヴァイオリン・リサイタル
6月17日(土)13:00

演奏: 三浦文彰(ヴァイオリン)
イタマール・ゴラン(ピアノ)
曲目: ドヴォルザーク「ロマンス Op.11」
ストラヴィンスキー「ディヴェルティメント」
ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第10番 ト長調」

樫本大進 ヴァイオリン・リサイタル
7月22日(土)13:00

演奏: 樫本大進(ヴァイオリン)
アレッシオ・バックス(ピアノ)
曲目: モーツァルト「ヴァイオリン・ソナタ第25番 ト長調 K.301」
シマノフスキ「神話 Op.30」
グリーグ「ヴァイオリン・ソナタ第3番 ハ短調」


 

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